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環境モデル都市・北九州市ー視察レポート (vol.246)

2013/01/29 ブログ by 安川有里


1/22~24、エネルギー政策調査特別委員会の視察で、
九州地方のエネルギーへの取り組みを調査しました。

今日は2日間で3カ所を調査した北九州市のプロジェクトの報告です。

レポートは、まず、北九州市が、平成23年12月に「環境未来都市」に選定された、
その歩み、歴史を100年以上遡ったところから始めます。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

福岡県の八幡製鉄所。
写真は、1900年、伊藤博文侯爵が建設中の東田第一高炉を視察に訪れた時のものです。

日本最初の本格的な製鉄所である八幡製鉄所の建設が始まったのは、
日清戦争が終わって3年後の1897年のことでした。
それまで日本は、鉄の大部分をイギリスなどからの輸入に頼っていました。
日清戦争後の日本は、軍備拡張のための兵器作り、軍艦の建造、鉄道の建設、
そして工業機械の製造などのために多くの鉄を必要としました。

そこで政府は、日清戦争の賠償金を投じて、
福岡県八幡村東田地区(現在の北九州市)に官営の製鉄所を建設しました。
ドイツの技術を取り入れた製鉄所は1901年に操業を始め、
15年ほどで鉄の国内生産の80%を占めるまでになりました。
官営八幡製鉄所の操業とともに、日本の近代産業の歴史が始まったのです。

当時の八幡村は、人口1200人(350戸)あまりの半農半漁を営む小さな村でした。
殖産興業を掲げた明治政府が、国家事業として製鉄事業を計画した際、
陸と海との拠点としての位置に加え、福岡県中心部から北部にかけて広がっていた筑豊炭田が
あったという事が建設地として選ばれた理由でした。

1972年(昭和47年)、八幡製鉄所は70年もの間産業を牽引してきた、その役目を終えました。
この間、製鉄所を中心に化学工業などの工場が次々に誕生し、
戦中・戦後の日本の産業をリードしてきました。

空を覆う煙や鳴り響く轟音とともに成長を続けてきたこの街。
工業が発展すると同時に、市民は「公害」という大きな苦難と向きあわなければなりません
でした。

空からは鳥たちの姿が消え、
海からは魚たちの姿が消え、
太陽の出ない空、大腸菌すらすめない死の海と呼ばれました。


(1960年代の様子)

(1960年代の洞海湾)

(洞海湾のヘドロ)

さらに市民を苦しめたのが「煤塵」です。
石炭などを燃やす際に出る煙で、窓はもちろん、干した洗濯物や子どもたたちの顔まで、
すぐに真っ黒……。
多くの市民がぜんそくに苦しみながら生活するしかありませんでした。


(煤塵がつまり、セメントを流したようになった雨樋)

(当時作られた冊子)

(小学校の校歌。???)

この苦難に立ち上がったのは、地元婦人会のお母さんたちでした。
家族を守りたいという思いが、市民を一つにし、ついに行政を動かします。


(陳情書)

1970年(昭和45年)「北九州市公害防止条例」が交付され、
大気や水質に関する規制が急速に強化されていきました。
20年・800億円をかけて公害克服に取り組みました。

循環型都市作り、低酸素社会づくり、
化石燃料をなるべく使わないようにしよう!
どんぐり銀行、27万本の植樹など
市民が見て感じることができる対策を行いました。

その成果は……
現在の澄みきった青空と、洞海湾に生息する100種類以上の魚介類が物語っています。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

それでは、環境未来都市・北九州市の未来への取り組みのレポートです。

まず、「J POWER. WAKAMATSU」。
昨年、エネルギー政策調査特別委員会の県内視察で調査した「J POWER 磯子」と同じ、電源開発(株)の火力発電所です。

「J POWER WAKMTSU」は昭和30年代に運転を開始したJ-POWER初の石炭火力発電所(平成元年に営業運転終了)を前身としています。
現在は、石炭利用を中心とした技術開発や、
火力発電所の運転に携わる人材の育成、
あるいは様々な新しい取り組みの拠点として重要な役割を果たしています。

石炭をよりクリーンで高度に利用するために、
石炭をガス化して、従来より発電効率を大きく向上させる石炭ガス化複合発電技術(IGCC)EAGLEプロジェクトの研究開発に取り組んでいます。
発電効率向上だけでなく、単位発電量あたりのCO2排出量の低減をねらった技術です。
このプロジェクトでは、IGCCにCO2分離回収技術を組み合わせ、
さらなるCO2低減を目指す研究も実施しています。

その他、海洋を中心とした微生物資源の獲得と有効利用を目指すバイオテクノロジー研究や、
全国にある石炭火力発電所の運転員を対象に、
実機を模したシミュレータを使った研修を行っています。
ハイレベルな運転実務研修を受けた研修生たちは、全国各地の発電所の安定運転に携わることで、
日本のエネルギーインフラを支えています。

更に、石炭火力発電所から発生する石炭灰の埋立・敷地造成事業を行い、
造成された土地を利用して、トマト生産(カゴメ(株)との共同事業)や大型太陽光発電所のフィールド試験を行っています。
トマト農園の名は、「響灘菜園」。
2006年3月に完成し7月に出荷開始。
年間約2,500tのトマトを生産しています。


(ハイテク温室で、通年栽培)


(多段収穫。日本在来種の「クロマルハナバチ」による自然交配を行っています。)


(ココ椰子の殻のみを100%利用した「ココ椰子培地」による「溶液栽培」)

響灘太陽光発電所は、モジュール枚数5,600枚、出力1,000w。


(広い絵は撮影できなかったので、こちらをパチリ!)

これだけだと、これまで何度もみてきた太陽光発電所ですが、
ラッキーなことに、調査の前日に完成した「追尾型」の太陽光発電のシステムを見ることができました。


(集光追尾型太陽光発電)

(レンズ部分をアップ!)

(さらにアップ!!!)

パネルだけが太陽光発電ではないーこれから、ますます、様々な開発が行われると実感しました。

☆ ☆ ☆

次は、「北九州次世代エネルギーパーク」。


(海を望む響灘、このロケーションにエネルギー施設がズラリ!)

北九州響灘地区では、低炭素社会実現に向けたエネルギーへの取り組みを進めています。
環境の時代にマッチする「低炭素」「自然共生」「資源循環」、
この3つの要素が揃った「響灘エコフロンティアパーク」など。

まず、エコタウンセンターでお話を伺ったあと、
広い敷地のなかに点在する施設を見せていただきました。

「低炭素」への取り組みを紹介しているエネルギーパークでは、
石炭・石油・天然ガスといった、暮らしを支えるエネルギー供給についてと、
次世代を担う自然エネルギーの仕組みなど、現状を把握することができます。
年間を通じて良い風が吹く響灘地区のシンボルとなっている風力発電。

前にレポートした「J POWER」の太陽光発電。
頓田発電所の水力発電。20mの落差を利用した、中小規模の水力発電です。
大型ダム開発を行わなくても出来る有効なエネルギーとして紹介しています。

「資源循環」のエコタウン。
あらゆる廃棄物を、他の産業分野の原料として活用し、
最終的には廃棄物をゼロにする(ゼロ・エミッション)資源循環型社会を目指します。
北九州エコタウンには、家電・蛍光灯・自転車・空き缶・ペットボトルなどをリサイクルする29事業所が集積しています。

「自然共生」。
緑の回廊創成事業では、日本最大級のビオトープを整備しました。


(解りにくいですが、手前奥がビオトープ)
地域の学校・企業・市民が参加し、「産業」と「自然」が調和する地区づくりをめざしています。

最後に、白島展示館へ。
ここからは、洋上タンク式の石油備蓄基地を望む事が出来ます。


(上の写真の島の部分の模型)

「いい未来を世界に見せよう」を合言葉にした
さまざまな工夫や努力を調査することができました。

☆ ☆ ☆

最後は、「北九州スマートコミュニティ」へ。


(スマートコミュニティの全体模型)

頂いたパンフレットの始めにこんな文章がありました。
(場所が、東田地域のため、スマートコミュニティのことは「東田」と表現しています)

『北九州スマートコミュニティ創成事業は、
いま、日本だけでなく世界から注目を集めるプロジェクトです。
多くの皆さんは、エネルギーを自給自足する、エネルギーを賢く使う、
自然エネルギーを有効活用する、環境にやさしい次世代のまちづくりなど、
関心や期待を持っていらっしゃると思います。

もちろん、ここ東田にはエネルギーを自ら作る発電所があります。
まち全体のエネルギーをマネジメントする地域節電所があります。
BEMSのオフィスやHEMSの住まいがあります。
博物館があり、そしてスマートストアもあります。
これらの施設それぞれに、エネルギーを有効に利用するために
さまざまなアイデアを出し合ったプロセスがあります。
本実証事業は、こうした多くの方々のさまざまな知恵から生まれた結果なのです。

私たちの考える“スマート”すなわち“賢さ”は、
そこに住む人、働く人、訪れる人のためだと思っています。
それは、エネルギーだけに限らず一人ひとりがそれぞれにスマートさを発揮できるまち、
これこそが、私たちの目指すもっともスマートなコミュニティの姿です。』

………ということで、NPO法人 里山を考える会の小林直子さんの案内による「ココスマツアー」に出発です。

まず、訪れたのは北九州市環境ミュージアム。

館内に入ると、プロローグから始まり、北九州市の変遷、
公害克服の歴史、地球環境学習、環境技術とエコライフ、
そして環境未来都市としての取り組みの5つのゾーンに別れています。


(八幡製鉄所操業開始。ここから北九州の工業と環境の歴史が始まります)


(案内役の小林さん)

ここからは、スマートコミュニティで特にご紹介したいものをレポートします。

ミュージアムの外にあった「北九州地球の道」。

富良野自然塾にあった地球の道。
ここでも、体験できるようになりました。

2003年小泉政権時、いち早く電力の規制緩和に名乗りを上げた東田地区の基幹エネルギー拠点、それが東田コジェネ発電所です。


(発電能力:33,000kw、約11,000世帯分)

北九州国際物流特区の中で、八幡東田地区において電気事業法の規制緩和により、
自営線による電力供給が可能になりました。
電気の供給者と使用者が共同で組合を設立する事で、密接な関係が担保される事になりました。
こうして、2007年(平成17年)東田コジェネ発電所が誕生。
安定かつ安価な新しい電力供給のカタチを実現したのです。

自分たちの電力発電所を持ち、
エネルギーをまち全体でマネジメントしている北九州スマートコミュニティ。


(BEMS、HEMSなどの内容は、上のイラストを参照して下さい。)

地域節電所。
ここでは「東田コジェネ」や他の自然エネルギー、蓄電池などの
このまちで作られ蓄えられている電力のすべてのデータを一元管理しています。


(一機で3kw。)


(ずらりと並んだ蓄電池)

季節はもちろん、その日の天候や気温で変わる発電量と需要量を予測し、
各家庭や職場に設置されている「スマートメータ」にそれらの情報を発信し、
最適な発電計画を作成します。
また、季節や曜日、時間帯によって変動する需要に対応して電気料金を変動させる
「ダイナミックプライシング」の実証実験も初めています。


(スマートメータ)


(宅内表示器。北九州スマートコミュニティ創造事業に参加している家庭・事業所に配られています。電気使用量が見える事はもちろん、地域節電所から「ダイナミックプライシング」のお知らせも子の端末を通して情報が届けられます。)

最後のレポートは、「水素タウン」です。
東田地区では、水素での発電システムによる新しいエネルギーマネジメントの実証実験が行われています。
新日鉄の八幡製鉄所で発生する福生水素を、「北九州水素ステーション」を介して地下のパイプラインを通して、
住宅や各施設に送り、各所に設置された純水素型燃料電池によって発電する仕組みです。


(水素エネルギー実証住宅)


(全7棟に6世帯の入居者が生活しています。)

棟の裏には、水素を化学反応で電気に変える「純水素型燃料電池」を設置。


(この他に、貯湯ユニットもあり、電気を作る時に出る熱を利用してお湯を沸かします。60℃くらい、200ℓためる事が出来ます。)

特別委員会のメンバーに人気の水素バイク。


(価格は、700万円。ちょっと、スーパーにお買い物!で駐輪場におく事は出来ないですね(笑))

☆  ☆  ☆

公害問題に取り組み、乗り越えたから・・・と簡単な言葉で表現できない調査でした。
エネルギーを大切に使う。
私たち一人ひとりが、単にエネルギーを使うだけの「コンシューマー(消費者)」から、
エネルギーを自ら創り使う「プロシューマー(生産消費者)」にならなければと感じました。
この調査を、神奈川のエネルギー政策に、どう活かしていくのか、特別委員会のメンバーで、
熟議し、結果に結びつけていきたいと思います


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